トレカ®T1100G、
トレカ®M40Xとは?
東レが開発したトレカ®T1100Gとトレカ®M40Xとは、従来の炭素繊維では難しいと考えられてきた
強さ(強度)と硬さ(弾性率)の両立を、これまでの第1世代、第2世代より高い次元で適えた第3世代の炭素繊維です。
このページでは、第3世代炭素繊維の概要のほか、T1100GとM40Xについて詳しく解説しますので、ぜひご参考ください。
第3世代炭素繊維とは、技術的な難易度が高いとされてきた強さ(強度)と硬さ(弾性率)を高次元で両立した素材です。炭素繊維の強さと硬さは、一方が高まればもう一方が下がる、というトレードオフの関係にあります。
第3世代炭素繊維では、繊維構造をナノレベルで制御する焼成技術を用いることで、強さと硬さを同時に高めることを実現しました。そこで誕生したのが、高強度タイプのT1100Gと高弾性率タイプのM40Xです。
高強度タイプ ※カッコ内はT700S対比
グレード | 強度 [GPa] | 弾性率 [GPa] | 伸び [%] | 密度 [g/cm3] | |
---|---|---|---|---|---|
第2世代 | T700S | 4.9 | 230 | 2.1 | 1.80 |
第2世代 | T800S | 5.9 (+20%) | 294 (+28%) | 2.0 | 1.80 |
第3世代 | T1100G | 7.0 (+43%) | 324 (+41%) | 2.2 | 1.79 |
高弾性率タイプ ※カッコ内はM40S対比
グレード | 強度 [GPa] | 弾性率 [GPa] | 伸び [%] | 密度 [g/cm3] | |
---|---|---|---|---|---|
第2世代 | M40S | 4.5 | 377 | 1.2 | 1.80 |
第3世代 | M40X | 5.5 (+22%) | 377 | 1.5 | 1.79 |
こちらのグラフや表に示す通り、T1100GとM40Xはともに、従来の炭素繊維と比べて強さ(強度)と硬さ(弾性率)のバランスに優れています。
例えば、T1100Gの強さ(強度)は7.0GPa、硬さ(弾性率)は324GPaであるのに対し、一世代前のT800Sの強さ(強度)は5.9GPa、硬さ(弾性率)は294GPaです。
また、M40Xと一世代前のM40Sの硬さ(弾性率)は377GPaと同等であるものの、M40Xの強さ(強度)は5.5GPa、M40Sの強さ(強度)は4.5GPaとなっています。
このように、これまで困難と考えられていた「より硬くて強い」状態をT1100GやM40Xで実現しています。
そもそも炭素繊維とは?
そもそも炭素繊維とは、炭素原子が結合してできた1本の直径が約5-7ミクロン(髪の毛の約1/10の太さ)の繊維状の材料であり、非常に軽量で強靭な特性を持っています。衣料品の原料で使われることの多いアクリル樹脂を繊維加工し、高温で処理することによって不純物を取り除き、炭素原子の含有率を90%以上にまで高めたものを炭素繊維と呼びます。
炭素繊維は、主に「軽い」、「強い」、「硬い」という3つの特徴があります。つまり、低比重で高強度、高弾性率であることから、航空宇宙産業や自動車産業、スポーツ用品などさまざまな分野で使用されています。
例えば、航空・宇宙分野では、航空機などの機体の軽量化による燃費向上や錆びない特性を活かした客室内の湿度アップによる快適性の向上、自動車分野では車体の軽量化による燃費向上はもちろん、水素、天然ガスを圧入するタンクにも使用されCO2排出を抑えるための素材として注目を集めています。
スポーツ分野では釣竿をはじめ、ゴルフシャフト/ヘッド、自転車のフレーム/リム、テニス/バトミントンラケット、ホッケースティック等々、用具を使うスポーツに使用されており、選手のパフォーマンス向上に役立っています。
炭素繊維トレカ®T1100Gとは
ではまず、炭素繊維トレカ®T1100Gの特長を解説します。
従来品よりも軽くて強い
前述の通り、T1100Gは従来の炭素繊維と比べて強さ(強度)と硬さ(弾性率)が大きく向上しています。
この特徴をご紹介するために、T700S、T800S、T1100G炭素繊維にエポキシ樹脂をしみこませたシート(プリプレグ)を使用して「同じ硬さの平板」を作製し、検証試験を行いました。硬い炭素繊維は柔らかい炭素繊維より少ない量で同じ硬さの板を作ることができるので、板の厚さや重さはT700S>T800S>T1100Gの順に小さくなります。
板の厚さ [mm] |
板の重さ [g] |
|
---|---|---|
T700S | 2.4 | 11.7 |
T800S | 2.3 (-6%) | 11.0 (-6%) |
T1100G | 2.2 (-11%) | 10.5 (-10%) |
板の厚さと重さはT700Sの方が大きいにも関わらず、薄く軽く仕上がっているT1100G平板の強さ(強度)が高い結果となっています。
軽量に仕上がりたわみ戻りの速度が速くなる
たわみ戻りの速度は、たわんだ状態の位置から水平の位置に戻る速度で測定しています。硬さが同じ平板でありながら、重量はT1100Gが最も軽く仕上がっていることから、たわみ戻りも速くなります。
T1100GはT700S・T800Sと比べて軽いため、検証実験の動画ではたわみ速度が最も速いことがわかります。
炭素繊維トレカ®M40Xとは
続いて、炭素繊維トレカ®M40Xの特長を解説します。
従来品より強い
一般的に炭素繊維は硬さを向上すると、強度が下がり脆くなる傾向があります。
M40XもT1100Gと同様に、強さと硬さについて、極限での両立を目指し開発した炭素繊維となっており、従来品M40Sの硬さを維持しながら、強さを約20%向上させた素材です。
その性能を検証するためにM40S、M40Xで同じ硬さの平板を作製しました。同じ硬さなので、M40XはM40Sと同じ厚さと重量です。
板の厚さ [mm] |
板の重さ [g] |
|
---|---|---|
M40S | 2.0 | 10.0 |
M40X | 2.0 | 10.0 |
M40Xは、M40Sと同じ厚さ、重さですが、M40S平板よりも強い結果となっています。
これは、従来の炭素繊維の定説を覆すほどすごい結果であり、このM40Xの特徴を活かした商品開発がお客様の中で進んでいます。
まとめ
T1100GとM40Xは、これまでの炭素繊維では難しいと考えられてきた強さ(強度)と硬さ(弾性率)を高いレベルで兼ね備えた素材です。これらを使うことにより、ゴルフシャフトや釣竿、自転車などのスポーツ用具のパフォーマンス向上が期待できます。
使用用途例 | 期待できる効果 |
---|---|
ゴルフシャフト | 軽量化=余剰重量をバランス最適化に回して安定性や飛距離が向上 |
釣り竿 | 軽量化、高剛性化=高感度、遠投性、魚の釣り易さが向上 |
自転車 | 軽量化、高剛性化=踏み込み時のパワーロス低減 |
東レは、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」との企業理念のもと、皆さまの「こうなりたい」の声にお応えできる素材の開発を通じて、社会に貢献してまいります。
今回ご紹介したM40Xを更に進化させたM46Xについてはこちら